バイトを始めた。
高円寺の古びた音楽スタジオ。
仕事内容は主に受付とスタジオの掃除。
たまに音響機材の修理やPAエンジニア的な事もやっている。と言うかやらされている。
時間帯は夜の23時から26時までの3時間。
時給は1200円と悪くはない。
高円寺と言う土地柄もあり、毎日夜遅くまで練習に励むバンドマンが後を絶たない。
しかも色んな人種がいるのもこの土地の面白さだ。
髪の毛を緑色に染めたモヒカン頭のパンク少年。
顔にややメイクを施しているビジュアルバンド。
結婚式の余興の為にバンドを組む事になったサラリーマン。
80年代の余韻をやや引きずっているオバさんバンド。
ヒッピーのような格好をしたオジさんバンド。
とにかく様々だ。
なぜ僕がここでバイトをしているか?
それはある女の子に会う為だ。
ある日ネットサーフィンをしていると、見た事もない女の子のブログに到達した。
どうやら彼女は細々とタレント活動をしていて、たまに音楽活動もしているという。
その音楽活動の拠点が、高円寺にある音楽スタジオだと言う事が書かれていた。
そして気付けば朝まで彼女のブログを読んでいた。
まだ会った事がない、そしてさっき初めて知った彼女に恋をした。
それを恋というのはもしかしたら違うかもしれない。
でもとても気になるのは間違いない。
善は急げと言う言葉通り、僕は高円寺にあるスタジオでバイトをする事となった。
自販機でジュースを買う時に何を買おうかいつも迷う、いわゆる優柔不断な僕なのに、
この時ばかりは、すぐに音楽スタジオにバイトの募集がないかと電話をしたのは僕自身驚いている。
ここで誤解はしないで欲しい。僕はストーカーではない。
ただ、彼女に会えたらいいな〜と言うピュアな心の持ち主だと言う事だ。
そもそも数ある音楽スタジオの中で、彼女がこの音楽スタジオを選ぶ事すら知らない。
バイトを始めて1ヶ月が過ぎた頃、ついにその時はやってきた。
受付に座っていると予約用の電話が鳴った。
25時から26時までの一時間借りたいと言う電話。
電話越しの声は若くて、でも少しハスキーで可愛らしい。
僕はその時思った。絶対に彼女だと。
その日は祝日の前日という事もあり、いつも以上に込んでいた。
自分たちの番を待つバンドマンが一斉にタバコを吸うので、待ち合いスペースはどんより煙だらけになる。
その煙を掻き分けて、大きなギターを持った女の子が入って来た。
その瞬間、どんより曇っていた空気が何か柑橘のような爽やかさに中和されていく感じがした。
彼女だ。
間違いない。
僕が想像していたよりも小柄で、ボーイッシュ。
でもまったりと話すけどハスキーな声と言うアンバランスさが、さらに僕をドキドキさせた。
ありきたりの営業トークと簡単な受付を済ませた後、彼女はスタジオに入って行った。
その時間、わずか1分。
でも僕には何十分も感じた。想像通り可愛くて素敵な女の子だった。
と、ここで夢が覚めた。
夢?
そうです、これ僕がこの間みた夢です。
もちろんバイトもしていません。
紛れもなく夢です。
しかしこの話には続きがあります。
実はこの女の子、実在する子です。
先週の火曜日、渋谷にある「O-NEST」と言うライブハウスに行ってきました。
4バンドくらいの対バンライブです。
僕のお目当ては「藤岡みなみ&ザ・モローンズ」と言うバンドで、
そのボーカルを務めている「藤岡みなみ」と言う女性が夢の中で出てきた女の子です。
先程の夢は、
ライブに行く前日に見た夢です。
ライブが終わった後に彼女とお話させて頂いたのですが、
その時間3分くらい。
でも実際10秒くらいに感じました。
とても爽やかで疾走感のあるバンドなので興味がある方は是非聴いてみてください。
SoundCloudで聴けます。
「藤岡みなみ&ザ・モローンズ」
https://soundcloud.com/373-morones
「N」